抽象的視点を身につける ~「具体と抽象」を読んで~

書籍

 細谷功氏の著書「具体と抽象 世界が変わって見える知性の仕組み」という本についての記事を書こうと思います。この本は今話題となっている「メモの魔力」(前田裕二)の中で引用として紹介されていて、興味を持ちこの本に出合いました。(メモの魔力についての記事も後に書く機会があれば書こうと思います。とても良い本でした)

 この本は題の通り、具体と抽象についてまとめられた本です。一般的には具体と聞くとわかりやすいイメージがあり、反対に抽象と聞くとわかりやすいイメージを持つと思います。社会は何事もわかりやすい方向に流れるようにできているため、抽象という概念のイメージはあまり良いものではないと思われているかもしれません。しかし、人間の知性の大部分は抽象化によって成り立っているというのが本書を読めばわかると思います。

抽象の世界

具体・抽象とは

 本書の説明によると、具体(抽象の正確な対義語は具象)とは、

  • 「実体」と直結
  • 1つ1つが個別対応
  • 解釈の自由度が低い
  • 応用が利かない

といった特徴があります。対して、抽象とは、

  • 「実体」とは一見乖離
  • 分類してまとめて対応
  • 解釈の自由度が高い
  • 応用が利く

といった特徴があります。

抽象のマジックミラー性

 抽象的な考えを持つ人にとって、周囲の「具体レベルにのみ生きている人」とのコミュニケーションギャップというのは大きな問題になります。それは抽象のマジックミラー性が原因になります。

 抽象度の高い概念は見える人にしか見ることができず、逆に具体的なものはすべての人が見ることができます。抽象度の高いものは長く経験を積んだり、多くの書籍を読むことにより身についていくものです。まだ未熟な人(経験が浅い人)には見えていないものが見えているのだが、それを説明することができない状況をイメージすればわかりやすいと思います。これは、「見えている人(見えてしまった人)」が持つ永遠の悩みということができます。歴史に名を残す人の作品が、発表当時には全く周りに理解されない理由の一つがこれです。

 私は、逆に具体にもマジックミラー性があるように思います。これは自分の専門分野やニッチな趣味の話を人にするときを考えればイメージがつきやすいと思います。例えば、PCの内部構造を知っている人にとってはパーツ一つ一つでPCを分類して区別しますが、わからない人にとっては、抽象度の高いPCというくくりでしか区別することができません。

抽象度の高い学問

 「哲学」と「数学」は徹底的に抽象度が高い学問ということができます。その抽象度の高さ故、苦手な人や理解できない人が多い学問であると言い換えることができます。学校で国語や算数を主要教科とするのも、抽象度の高い学問であるからです。そして、デカルトやパスカル、ライプニッツといった歴史上の偉人が、数学者であり哲学者であるというのは「高度な抽象概念の操作」という点で同じであるためなのだと考えられます。

 PayPal共同創業者のピーターティールはスタンフォード大の起業についての講義でこう述べたと言われています。

人文学を専攻すれば、世界について多くのことを学べるだろうが、仕事に必要なスキルは学べない。一方、エンジニアリングを専攻すれば、技術について多くを学べるだろうが、そのスキルを、なぜ、どのように、どこで応用すべきかは学べない。最も優秀な学生、社会人、思想家とは、これらの問いを首尾一貫したナラティブに統合する人である。(ピーターティール)

 これは具体と抽象を行き来する大切さを物語っているととらえることができます。エンジニアリングは具体的な学問と位置付けることができます。

 抽象的な思考が得意な人は、学者気質。具体的な思考が得意な人は実務家気質。その両方を行き来するのは起業家気質とこの本にも書いてありました。抽象思考、具体的思考のどちらが得意かで自分の特性を図ることもできるようです。

数学は学んでも使えないという意見の反論

 この本に書いてあった面白い話として、数学に対する反論に対する反論がありました。数学を学んでも三角関数も微積分も実世界では何の役にも立たないじゃないか。という意見はよく聞くと思います。それに対して私の意見としては、三角関数も微積分も行列も、一般人が気づいていないだけで、CGや物理エンジンやシステムなどあらゆるところのバックグラウンドに数学は関わっている。ただ気づかずに使っているだけ。というものがありました。

 さらに、この本では、数学は抽象度の高い思考を学ぶ学問であるのに、実生活で使えないという具体的なものに使うことができないという意見を持っている時点で、皮肉なことに数学の勉強に失敗しているという秀逸な返答がありました。ぜひ、数学の教師の方々には持っておいてほしい反論だと思いました。

 

文章の長さと抽象度の関係

 この部分は最初に紹介した「メモの魔力」にも引用されていた部分です。哲学者のパスカルは友人に出した手紙の最後に、「今日は時間がなかったために、このように長い手紙になってしまったことをお許しください」と書いたそうです。

 このことからわかるのは、「単純化」し、短くまとめることの方が、長く書き連ねることよりも抽象化能力を必要とする作業であり難しいということです。

 よく、レポートやまとめ・感想を書く紙などで長く書くほど良いと思っている人がいます。長く書いている方がたくさん勉強したような気になるし、たくさん勉強したように証明できる感じがするためです。しかし、それは授業(具体)をそのまま紙に写しているにすぎず、内容を抽象化していないため、応用の利く知識となっていないことが多いと思います。難しく、重要なのは長く書くことよりも短く要点を絞ってまとめることです。

 このことについては、過去に「東大読書」という本をまとめた時も同じようなことを書きました。良ければそちらもご覧ください。

https://wakaizumiblog.com/post-263/

本の紹介

 この本は133ページととても薄い本にも関わらず、内容がとても濃い本です。それもおそらく抽象度が高いレベルでまとめられているからこの薄さなのかもしれません(笑)。

 各章ごとに漫画が挟まれているので、取り掛かりやすい本です。これは好みがわかれるところではありますが。

 ここで紹介した内容以外にもたくさん面白い話がありましたが、私の抽象化能力の低さが故、学んだことを詰め込むことができませんでした。ぜひ手に取ってみてください。

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